チャートの前に座って、1時間が経った。

特に根拠のあるエントリーポイントは来ていない。でも何もしていない自分が、なんとなく落ち着かない。

「スキャルピングで少しでも取れるかも」「ここで入っておけばよかった」──そんな考えが頭をぐるぐる回る。

気がつけば、0.3万通貨でドル円ロング。根拠は「なんとなく上がりそうだから」。

これがポジポジ病の典型だ。(名前がかわいいけど、やってることはけっこう深刻)


ポジポジ病とは何か:「休むも相場」の反対側

ポジポジ病とは、明確な根拠がなくてもポジションを持たずにいられない状態を指す。日本のFXコミュニティで使われるスラング的な用語だが、その実態はオーバートレード(過剰売買)という深刻なリスク管理の問題だ。

日本の相場格言に「休むも相場」という言葉がある。ポジションを持たない日も、立派なトレード戦略だという意味だ。ポジポジ病はこの格言の真逆を行く。

問題は、これが「意志の弱さ」の問題ではないという点だ。脳の報酬回路が深く関わっている。

なぜポジションを持たずにいられないのか:ドーパミンとFX

ドーパミンは「快楽ホルモン」として知られるが、より正確には「期待と予測の報酬系」を担うホルモンだ。

FXでエントリーした瞬間、何が起きるか。資金が動き、結果が未確定になる。この「不確実性への期待」がドーパミンを放出させる。

重要なのは、ドーパミンが出るのは「利益が出たとき」ではなく「エントリーした瞬間」と「チャンスに気づいた瞬間」だという点だ。

つまり、チャートを見てエントリーのサインを探す行為自体が、ドーパミン的な快楽を生む。「ここで入れるかも」という期待感が、脳を活性化させる。

チャートを見ていると「根拠のあるエントリー」と「根拠のないエントリー衝動」を脳が区別しにくくなる。どちらも「エントリーの機会」として同じドーパミン回路を刺激するからだ。

さらに連続した小さな「勝ち」が重なると、脳はパターンを学習する。「トレードする → 勝てる」という回路が強化され、トレードしないことへの不安が増す。

(これ、スロットマシンと同じ仕組みだと気づいた時は怖くなった)

ポジポジ病が引き起こす3つのリスク

リスク1:取引コストの累積

スプレッドは一回ごとにかかるコストだ。1万通貨のドル円で1pipsのスプレッドなら100円。一日20回取引すれば、それだけで2,000円のコストが出る。月22営業日で44,000円。証拠金10万円の44%が、勝ち負け関係なく消える計算になる。

リスク2:集中力の分散

明確なトレードチャンスが来たとき、すでに別のポジションを持っていると集中できない。「このポジションどうしよう」「こっちは含み損だし」という雑念が、本当に取るべきトレードの判断を曇らせる。

リスク3:感情の枯渇

何回も小さなトレードを繰り返すと、精神的に疲弊する。後半になると判断力が落ち、さらに無謀なトレードをしやすくなる。これを「意思決定疲労」という。


ここで少し立ち止まって考えたい。「トレードしないと損した気分になる」という感覚は、なぜ生まれるのか。

これは「行動バイアス」と呼ばれる心理現象だ。人間は「何もしないこと」から生じる損失より、「何かしたこと」から生じる損失を軽く見る傾向がある。スポーツのゴールキーパーが、「立ち止まって失点するより、左右どちらかに飛ぶ方がマシ」と感じるのと同じ構造だ。

FXでは、トレードしないことへの後悔(「入っておけばよかった」)が、トレードして失ったことへの後悔より大きく感じられやすい。この非対称性がポジポジ病を加速させる。

ポジポジ病の心理的な対処法

対策1:「トレードしない理由リスト」を作る

逆転の発想だ。エントリーする理由ではなく、「今トレードしない理由」のチェックリストを作る。

  • 直近3本のローソクがトレンドを示していない
  • 重要指標発表まで2時間以内
  • 前の損切りから1時間以内
  • ドル円のスプレッドが通常の2倍以上

このリストに1つでも当てはまれば、トレードをしない。「やらない理由」を明文化することで、衝動に対抗できる。

対策2:「1日のトレード上限」を設定する

1日あたりのトレード回数に上限を決める。例えば「1日3回まで」。

3回の枠を使い切ったら、その日はチャートを見ても取引しない。この「回数制限」は、脳に「良いタイミングのためにリソースを取っておく」という行動を促す。

対策3:チャートを閉じる時間を決める

「午前9時〜10時と午後3時〜4時だけチャートを見る」というルールを設ける。

チャートを見ている時間が長いほど、「何かエントリーできないか」という衝動が生まれやすい。物理的にチャートを見る時間を制限することで、衝動の発生頻度を下げる。

対策4:待つことを「トレード」として記録する

トレード日記に「待った」ことも記録する。

「14時:ドル円が動いたが、自分のルールに合わなかったので見送り」

これを記録することで、「待つ」という行動にもフィードバックが生まれる。待ったことへの達成感が積み重なり、ドーパミン回路を「トレードしないこと」にも向けられるようになる。

今日からできる1つのこと

明日のトレード前に、「今日の取引上限回数」を紙に書いてテキストファイルに保存する。3回でも5回でも、自分の許容量に合わせていい。

その回数を使い切ったら、その日は「見るだけ」モードに切り替える。

最初は苦痛に感じるかもしれない。「あそこで入れたのに」という後悔も出る。でも2週間続けると、「良いタイミング」がどれほど少ないかが分かってくる。チャンスを待つことそのものが、戦略になり始める。

よくある質問

Q: ポジポジ病はFX初心者だけの問題ですか?

A: いいえ、経験年数に関係なく起きます。ただし、初心者は「何かしていないと負けた気がする」という焦りから、ベテランは「俺なら拾える」という過信から発症しやすい傾向があります。メカニズムは異なりますが、どちらもドーパミン回路の問題です。

Q: デモトレードでポジポジ病の練習をしてから本番に移るべきですか?

A: デモでは資金が減らないため、ポジポジ病の「痛み」を体験できません。少額の実弾(最小ロット)で回数制限ルールを試す方が、心理的な訓練になります。負けが本物の痛みを伴うからこそ、「待つ」価値を実感できます。

Q: 「待つ」間、退屈で仕方ありません。どうすれば?

A: チャートを見ているから退屈になります。待つ時間は、トレード日誌の振り返り、テクニカル分析の復習、過去チャートの研究に使いましょう。画面の前でポジションを待つのではなく、画面から離れて「次の出番のための準備」をするイメージです。

Q: ポジポジ病と「積極的なトレードスタイル」の違いはどう判断すればいいですか?

A: エントリーの根拠が説明できるかどうかです。スキャルピングで一日50回取引するスタイルでも、各エントリーに「このローソクの形が〇〇を示している」「このサポートラインからの反発を取る」という明確な理由があれば問題ありません。「なんとなく動きそう」「じっとしていられない」という理由でのエントリーがポジポジ病です。

Q: ポジポジ病を治したら、トレード回数が極端に減りました。それでいいのですか?

A: むしろ理想的な変化です。FXで継続的に利益を出しているトレーダーのほとんどは、思っている以上に少ない回数しかトレードしていません。エントリー頻度を下げることで、一回一回のトレードへの集中度が上がり、勝率も改善しやすくなります。「休むも相場」の実践です。