1960年代、英仏両国は超音速旅客機「コンコルド」の開発を始めた。

開発が進むにつれ、採算が取れないことが明らかになっていった。しかし両国政府は「ここまで投資してきたのに諦めるわけにはいかない」という理由で開発を続けた。

結果として、コンコルドは2003年に商業飛行を終了するまで、膨大な損失を生み出し続けた。

この「すでに投資した費用(サンクコスト)を回収しようとして、さらに投資を続けてしまう非合理な行動」を**コンコルドの誤謬(サンクコスト効果)**と呼ぶ。

FXにおけるコンコルドの誤謬

FXトレードで、コンコルドの誤謬はどう現れるか。

最も典型的な例が**ナンピン買い(または売り)**だ。

含み損のポジションがある。「もう少し安いところで追加買いすれば、平均取得コストが下がって、少し相場が戻っただけで損益がプラスになる」という計算だ。

確かに数学的にはその通りだ。しかし、この思考には「相場はいずれ戻る」という前提が含まれている。そしてその前提が間違っていた場合、損失は2倍・3倍と拡大する。

「ここまで含み損を抱えたのだから、損切りできない」という発想がナンピンを正当化する。しかし実際には、最初に損切りしていれば小さな損失で済んでいたものが、ナンピンによって壊滅的な損失に変わる。

コンコルドの誤謬が起きる心理的プロセス

段階1:最初のエントリー

通常のエントリーが行われる。損切りラインも一応頭の中にある。

段階2:含み損の発生

相場が逆行し、含み損が発生する。損切りラインに近づいてくる。

「でも、自分の分析は間違っていないはず。もう少し待てば…」

段階3:損切りラインの移動

損切りラインを少し遠ざける。「あと少し待てば」という希望を持続させるために。

この時点で、プランとの乖離が始まっている。

段階4:ナンピンの決断

損失がさらに拡大する。「ここで追加で買えば平均取得コストが下がる」という計算が浮かぶ。

「今まで含み損を抱えてきた苦労が、ナンピンで報われるかもしれない」というサンクコスト的な発想が加わる。

段階5:さらなる逆行

ナンピンにも関わらず相場が回復しない。気づいたときには当初の損失の3倍・5倍になっている。

「すでに失ったもの」は取り返せない

コンコルドの誤謬の根本的な誤りは、**「すでに失ったもの(サンクコスト)は取り返せない」**という事実を無視することだ。

英仏政府がコンコルドに費やしたお金は、開発を中止しようと継続しようと、もう戻ってこない。

FXのポジションで出た含み損は、ナンピンで平均コストを下げようと、損切りしようと、「そのポジションを保持するリスク」の問題だ。過去の含み損の経緯は、今後の判断に影響させてはいけない。

正しい問いは「今からどうすれば最も合理的か」だ。「これまでの投資を無駄にしないためにどうするか」ではない。

コンコルドの誤謬を防ぐための実践的ルール

ルール1:ナンピンを戦略として採用しない

初心者のうちは、ナンピンを戦略として採用しないことを強くお勧めする。

「平均コストを下げる」という考え方は数学的に正しいが、「相場は必ず戻る」という前提が伴う。しかし相場は必ずしも戻らない。特に強いトレンドが発生した場合、ナンピンは破滅的な結果を招く。

ルール2:最初のエントリー時に「全額のリスク」を計算する

ナンピンを想定せず、最初のエントリーで「これが最後のポジション」として、許容できるリスクを計算する。

「追加できるから少し多めに」という発想を持ち込まない。

ルール3:「今からの判断」を純粋に考える

含み損が出たときに、次の問いを自分に投げかける:

「もし今このポジションを持っていなかったとしたら、今この価格帯で新たにエントリーするか?」

答えが「No」なら、損切りすべきだ。過去の含み損という感情的なしがらみを外した純粋な判断として。

ルール4:損切りを「過去を清算する行動」として捉える

損切りは敗北ではなく、「過去の判断ミスを清算し、未来に向けて新鮮なスタートを切る行動」だ。

コンコルドの誤謬に気づいたとき、損切りは「ここまでの苦労を無駄にする」行動ではなく「これ以上の損失拡大を防ぐ賢明な判断」だ。

過去は変えられない。しかし今後の選択は変えられる。損切りとは、「今後の損失を防ぐための未来への投資」なのだ。