1987年10月19日、「ブラックマンデー」と呼ばれるその日、ダウ工業株30種平均は一日で22.6%暴落した。史上最大の一日下落率だ。

多くのファンドが壊滅的な損失を被る中、一人の若きトレーダーが莫大な利益を上げていた。

ポール・チューダー・ジョーンズ。当時30代前半。彼は事前にS&P500の先物をショートし、この歴史的な暴落で200%超のリターンを記録した。

しかしジョーンズが真に「伝説のトレーダー」と呼ばれる理由は、一度の大勝ちではない。1987年から現在に至るまで、30年以上にわたって一貫してプラスのリターンを維持し続けているという事実だ。

彼の哲学、彼の名言には、長期間生き残るための本質が凝縮されている。

ポール・チューダー・ジョーンズとは何者か

生い立ちとキャリアの始まり

ポール・チューダー・ジョーンズ2世は1954年、米国テネシー州メンフィスに生まれた。バージニア大学でエコノミクスを専攻後、綿花の先物ブローカーとしてキャリアをスタートした。

1980年、26歳のときに独立してチューダー・インベストメント・コープを設立。わずか150万ドルの運用資金から始めたファンドは、現在では100億ドル以上を運用するマクロヘッジファンドに成長した。

ドキュメンタリー「Trader」

1987年、ジョーンズを追ったドキュメンタリー「Trader」が制作された。このフィルムには、彼がブラックマンデーを予測し、巨額の利益を上げる様子がリアルタイムで記録されている。

興味深いのは、ジョーンズ自身がこのドキュメンタリーの流通を後年禁止したことだ。なぜか。「若い自分の投資判断や考え方が公開されることで、市場での優位性が失われる可能性を恐れた」という説もある。

現在このドキュメンタリーは非公式なルートでしか視聴できないが、その内容は伝説として語り継がれている。

ジョーンズの核心的名言10選と、FXトレーダーへの示唆

名言1:「負けトレードを素早く清算しろ。それが最も重要なことだ」

“The most important rule of trading is to play great defense, not great offense.”

「最も重要なトレードのルールは、優れた攻撃ではなく、優れた守備をすることだ」

これはジョーンズの哲学の核心を一言で表した名言だ。

多くの初心者トレーダーは「いかに利益を最大化するか」を考える。しかしジョーンズは「いかに損失を最小化するか」を最優先する。

FXへの応用:エントリーよりも損切り設定に最も多くの時間と思考を投資する。「どこで利確するか」を考える前に「どこで損切りするか」を決定する。

名言2:「5:1のリスクリワード比のみでトレードする」

“I’m always thinking about losing money as opposed to making money. Don’t focus on making money, focus on protecting what you have.”

「私は利益を稼ぐことより、損失について常に考えている。お金を稼ぐことに集中するのではなく、手元にあるものを守ることに集中しろ」

ジョーンズの有名な哲学の一つが「5:1のリスクリワード比」だ。つまり、リスク1に対して少なくとも5の利益を期待できるトレードしかしないということだ。

例えば損切り20pipsなら、利確目標は最低100pips。この厳格な基準により、仮に勝率が30%しかなくても、長期的には大幅なプラスになる。

FXへの応用:すべてのエントリー前に、リスクリワード比を計算する。1:1や2:1のトレードは、それがどれほど「確実に見えても」、拒否する。

名言3:「マーケットは常に変化する。だから常に謙虚であれ」

“Every day I assume every position I have is wrong. I know where my stop risk points are going to be. I do that so I can define my maximum possible drawdown.”

「毎日、私は自分が保有するすべてのポジションが間違っていると仮定する。ストップロスのポイントがどこにあるかを知っている。それは最大の可能なドローダウンを定義するためだ」

これは极めて重要な認知的姿勢だ。「自分は正しいかもしれない」ではなく「自分は間違っているかもしれない」を前提に行動する。

多くのトレーダーは「自分の分析は正しいはずだ」という前提でポジションを持ち、損切りを先延ばしにする。ジョーンズは毎日、保有ポジションを「間違っている可能性がある」として再評価する。

FXへの応用:ポジションを持ったその日から「このポジションは間違っているかもしれない」という目で見る。損切りラインを「間違いが証明される場所」として明確に設定し、そこに触れたら迷いなく損切りする。

名言4:「底を拾おうとするな。トレンドに乗れ」

“Don’t be a hero. Don’t have an ego. Always question yourself and your ability. Don’t ever feel that you are very good. The second you do, you are dead.”

「英雄になろうとするな。自我を持つな。常に自分自身と自分の能力に疑問を持て。自分が非常に優れていると感じた瞬間、あなたは終わりだ」

これはジョーンズが「底値買い」や「天井売り」の危険性を語った文脈で発したとされる言葉だ。

「今が底だ。絶好の買い場だ」という確信は、自我(エゴ)から来る場合が多い。「自分は相場の転換点を見抜ける」という過信が、カウンタートレンドの危険なエントリーを生む。

FXへの応用:底値買い・天井売りの逆張りより、確認されたトレンドに乗ることを優先する。「今が転換点だ」という強い確信ほど、疑ってかかる。

名言5:「ロスカットは損失ではなく、授業料だ」

“At the end of the day, the most important thing is how good are you at risk control.”

「一日の終わりに最も重要なことは、あなたがリスク管理においてどれほど優れているかだ」

ジョーンズは損切りを「失敗」として捉えない。それはリスク管理システムが正常に機能していることの証明だ、という考え方だ。

損切りを実行したトレーダーは「リスクを定義された範囲内でコントロールした」のだ。損切りしなかったトレーダーは「リスクをコントロールできなかった」のだ。

FXへの応用:損切りを「トレードコスト」として月間予算に組み込む。「今月は20,000円の損切りコストを使った。これはトレードを継続するための正当なコストだ」という認識を持つ。

名言6:「デイリーロスリミットを設定して守れ」

“I’ll keep the positions small and not worry about them.”

「ポジションを小さく保ち、心配しないようにする」

ジョーンズが実践する重要なシステムの一つが「デイリーロスリミット(1日の最大損失額の設定)」だ。

彼は「1日に一定額以上の損失を出したら、その日の全ポジションをクローズしてトレードをやめる」というルールを厳守しているという。

なぜか。「悪い日に無理してトレードを続けても、判断力が低下しているため、損失がさらに拡大することが多い」という経験則からだ。

FXへの応用:「今日の損失が○○pips(または○○円)を超えたら、その日はトレードをやめる」というルールを事前に設定する。感情的に動いているときに同じルールを作ることはできない。冷静なときに決めて、書き留めておく。

名言7:「最悪のシナリオを先に想定しろ」

“Where you want to be is always in control, never wishing, always trading, and always, first and foremost protecting your butt.”

「あなたが目指すべき状態は、常にコントロールできている状態だ。願うのではなく、常にトレードし、そして何より最優先で自分の尻を守ることだ」

「いかに利益を出すか」より「いかに最悪の事態を防ぐか」を先に考えるというジョーンズの哲学が凝縮された言葉だ。

ネガティブ・ビジュアライゼーション(最悪のシナリオを事前に想像する)は、ストア哲学にも通じる思考法だ。「このトレードが最悪どう展開するか」を先に想定することで、心理的な準備ができ、最悪の事態に直面しても冷静でいられる。

FXへの応用:エントリー前に「このトレードが最悪の展開をしたとき、損失額はいくらか。それは許容できるか」を確認する。許容できる最悪の損失だと確認できて初めて、エントリーする。

名言8:「パターンと心理は繰り返す」

“I’ve certainly done it — picked a target, hit it perfectly, and then let it go too far because I didn’t want to miss out on any more profit.”

「私もやったことがある──目標を設定し、完璧にヒットしたのに、利益を見逃したくないためにそれ以上持ちすぎてしまうことを」

これはジョーンズ自身の失敗談として語られた言葉だ。「完璧なトレードをしても、欲に負けて利益を失う」という普遍的な心理パターンを、彼自身が経験している。

「伝説のトレーダーでさえ、同じ心理的罠に陥る」という事実は、逆に安心感を与える。問題は心理的欠陥ではなく、その欠陥に対するシステムの有無だ。

FXへの応用:利確目標はエントリー前に「機械的に」決める。「もっと伸びそう」という感情での利確目標の変更を禁止するルールを設定する。感情的な変更を防ぐために、エントリーと同時にOCO注文(損切り+利確のセット注文)を入れる。

名言9:「自分のルールに従え。相場に従うな」

“The secret to being successful from a trading perspective is to have an indefatigable and an undying and unquenchable thirst for information and knowledge.”

「トレードで成功するための秘訣は、情報と知識への疲れを知らない、尽きることのない、飽くなき渇望を持つことだ」

これは継続的な学習の重要性を説いた言葉だが、その背景には「相場は常に変化する。今日通用する方法が明日通用するとは限らない」という認識がある。

「昨年うまくいったから」「去年は円安が続いたから今年も円安だろう」という固定した思考は、市場の変化に対応できない。常に新しい情報を取り込み、自分の考えを更新し続ける姿勢が重要だ。

FXへの応用:半年ごとに自分のトレードシステムを「ゼロベース」で見直す。「なぜこのルールがあるのか」「今の相場環境でもこのルールは機能するか」を定期的に問い直す。

名言10:「トレードで最も重要な一言」

“Losers average losers.”

(訳:「敗者はさらに負けを平均化する」)

わずか3語だが、FXにおける最も重要な教訓の一つを凝縮した言葉だ。

これはナンピン(負けポジションへの追加買い)を端的に批判した言葉だ。「負けている人間が取る行動(ナンピン)は、さらなる負けを引き起こす」という意味だ。

勝者がやること:負けポジションは素早く損切りし、勝っているポジションに資金を集中させる(ピラミッディング)。

敗者がやること:負けポジションに追加投資(ナンピン)し、勝っているポジションは早々に利確する。

FXへの応用:「Losers average losers」をトレードルールとして手帳に書き、毎日見る場所に貼っておく。ナンピンしたくなる衝動を感じたとき、この3語を思い出す。

ジョーンズが実践したトレードの「儀式」と習慣

ジョーンズの哲学を理解する上で重要なのは、彼が単に「考え方」だけでなく、日常の「習慣・儀式」としてこれらの哲学を体系化していた点だ。

毎朝のルーティン:市場を「リセット」する

ジョーンズは毎朝、前日までのトレードをすべて「ゼロベース」で見直すことで知られる。

「昨日のポジションは正しい」という思い込みを持ったまま新しい日を始めると、昨日の判断への固執(コミットメント・バイアス)が生まれる。毎朝「このポジションが今なくても、同じ判断をするか?」を問うことで、執着を断ち切る。

FXへの応用:週の始まり(月曜日)に、保有中のすべてのポジションを「今新規でエントリーするとしたら同じ判断をするか?」という問いで評価する。答えが「ノー」なら、そのポジションは感情的に保持しているサインだ。

「最悪の週」のルール

ジョーンズが実践するとされるもう一つのルールが、「悪い週に通常の5分の1のポジションサイズに縮小する」というものだ。

連続して損失が出ているとき、判断力は低下している。その状態で通常サイズのポジションを保持し続けることは、「壊れた状態の機械を全力運転させること」に等しい。

悪い週、悪い月はポジションサイズを大幅に縮小することで:

  1. 損失の拡大を物理的に防ぐ
  2. 「試行」を継続しながら感情的なリセットの時間を作る
  3. 自信が回復したときに、通常のサイズに戻せる

FXへの応用:「今週3回連続で負けた場合、翌日のポジションサイズを半分にする」というルールを設定する。機械的なルールとして設定しておくことで、感情的な状態でも実行できる。

チャートの「物語を読む」習慣

ジョーンズのドキュメンタリー「Trader」の中で、彼がチャートを「物語」として語る場面がある。「相場がここで止まったのはなぜか。ここで反転したのはなぜか。大きな資金がどう動いたのか」という「物語」を読むことで、次の動きを予測する。

この「物語思考」はFXトレーダーにも応用できる。テクニカルパターンを「シグナル」として機械的に処理するのではなく、「なぜこのパターンが生まれたのか」という背景の「物語」を理解することで、パターンの信頼性を判断できる。

ジョーンズの哲学から学ぶFX実践システム

ジョーンズの名言を「知識」で終わらせず、実際のトレードシステムに組み込むための具体策をまとめる。

システム1:1日1%ルール

ジョーンズのデイリーロスリミット思想を応用する。

「1日に口座残高の1%以上の損失が出たら、その日のトレードをすべてやめる」

口座50万円なら1日5,000円。このルールを守れば、「悪い日に連続して損失を出し続ける」という最悪のパターンを防げる。

システム2:5:1フィルター

すべてのエントリー候補に「5:1フィルター」をかける。

損切り20pips → 利確目標100pips以上でなければエントリーしない。

このフィルターにより、エントリー機会は減るが、1回のトレードの期待値が大幅に上がる。

システム3:「間違いを前提」の損切り設定

毎日、保有ポジションを「このポジションが間違っている場合、どこが損切りか」という視点で再確認する。

損切りラインが「まだ遠い」と感じるなら、それは適切な損切りが設定されていない証拠かもしれない。


まとめ:ジョーンズの哲学が教える「生き残る技術」

ポール・チューダー・ジョーンズの名言に一貫して流れるテーマは「生き残ること」だ。

華やかな利益ではなく、損失の最小化。強気の攻撃ではなく、堅固な守備。自信ではなく、謙虚さ。

彼が30年以上生き残れた理由は、誰よりも「負け」について深く考え続けたからだ。

FXトレーダーとして、「どう勝つか」より「どう生き残るか」を問い続けることが、長期的な成功への唯一の道だ。ジョーンズの言葉は、その問いへの答えを示している。


よくある質問(FAQ)

Q1. ポール・チューダー・ジョーンズは個人トレーダーにも参考になりますか?

なります。彼の基本哲学(損失の最小化、リスクリワード比の管理、デイリーロスリミット)はファンドマネージャー向けではなく、普遍的なトレードの原則です。むしろ資金が少ない個人トレーダーほど、1回の損失が口座残高に与える影響が大きいため、ジョーンズのリスク管理哲学は重要です。

Q2. 5:1のリスクリワード比は現実的ですか?FXで毎回100pips取るのは難しくないですか?

5:1のリワードリスク比はジョーンズの個人的な基準であり、すべてのトレードに適用する必要はありません。ただし「少なくとも2:1以上」を基準にすることは現実的です。重要なのは比率そのものより「エントリー前に必ず計算する」習慣を持つことです。リスクリワード比を意識することで、「利益は小さく損失は大きく」という最悪のパターンを防げます。

Q3. ドキュメンタリー「Trader」はどこで見られますか?

現在、ジョーンズ自身がこのドキュメンタリーの公式配信を許可していないため、正規の視聴方法はありません。インターネット上に非公式なコピーが存在しますが、著作権的にグレーゾーンです。内容については多数のトレーダーや書籍で引用・分析されているため、そちらを参照することをお勧めします。

Q4. ジョーンズのような「マクロトレード」は個人FXトレーダーにも応用できますか?

ジョーンズが行うグローバルマクロ戦略(世界各国の経済・政治・金融政策を分析してポジションを取る)は、複数の市場や商品に分散投資する必要があり、個人向けに完全再現することは難しいです。ただし、「中央銀行の政策方向性を把握してトレンドに乗る」という基本的なマクロ分析の視点は、FXトレーダーにも有効です。日米金利差、インフレ率、リスクオン/オフの環境を把握してトレードすることは、ジョーンズのマクロ哲学の一部を取り入れることになります。

Q5. 「Losers average losers」という言葉について、例外はありますか?

ジョーンズはこの言葉で「計画のないナンピン」を批判しています。一方、システム的なマーチンゲール手法や、あらかじめ計画された「スケールイン戦略(段階的なポジション増加)」は性質が異なります。ただし、初心者・中級者がナンピンを「例外として許可」するのは危険です。「今回は例外だ」という思考が、最も典型的なナンピンの落とし穴だからです。少なくとも1年以上の実績を積むまでは、ナンピン禁止を絶対ルールにすることをお勧めします。