+87pips の含み益を見ながら、指が動かなかった。

「もう少し待てば100pipsいくかもしれない。ここで利確したらもったいない」

1時間後、相場は反転した。+20pipsになったところで、ようやく決済ボタンを押した。

(67pipsも置いてきてしまった)

この経験を繰り返しているトレーダーに、江戸時代の米相場師たちが遺した言葉がある。


「頭と尻尾はくれてやれ」とはどういう意味か

「頭と尻尾はくれてやれ」

江戸時代から伝わる日本の相場格言だ。

「頭」は価格の天井、「尻尾」は底のこと。天井で売ろうとせず、底で買おうとしない。相場の一番美味しい中身(胴体)だけを取り、天井と底はくれてやれ、という意味だ。

現代FXトレーダー向けに言い換えるなら:「上昇の出発点で買い、天井の手前で売る。天井まで待つな」

この格言は、「完璧なエントリーと完璧な利確を追う欲を戒める」教えだ。

類似する西洋のトレーダーの言葉として、ジェシー・リバモアの「My sitting, not my thinking, made me money(私に金をもたらしたのは考えることではなく、じっとしていることだった)」があるが、ここで言う「じっとしていること」は「天井まで待ち続けること」ではない。「適切な利確ラインまでじっと持ち続けること」だ。

この格言の背景:江戸の米相場から

「頭と尻尾はくれてやれ」が生まれたのは、江戸時代の大阪・堂島米会所だ。

米の先物取引として世界最古と言われる堂島米会所では、相場師たちが天気・農作物の出来・政治的情勢を読みながら売買していた。ローソク足チャートの発明者とされる本間宗久もここで活躍した人物だ。

江戸の相場師にとって「天底を狙う欲」は、最も危険な感情の一つとして認識されていた。天底を狙って持ち続け、反転した後に「もう少し待てばまた上がるかも」と塩漬けになるパターンは、江戸時代から存在したのだ。

この格言が400年近く語り継がれているのは、それが人間の本質的な欲の問題だからだろう。テクノロジーが変わっても、人間の脳は変わらない。

FXトレードへの適用:3つのシーン

シーン1:東京時間の仲値前後

午前9時55分の仲値に向けてドル円が上昇しやすい時間帯がある。仲値前に+30pips取れたとして、「仲値通過後の流れに乗ってもっと取れるかも」と持ち続けるのは、「頭まで狙う」行動だ。

仲値の需給による上昇は一定の確度があるが、仲値通過後は別の論理で動く。事前に「仲値前後で利確」と決めておけば、+30pips を確実に手にできる。

「胴体」を取ったら手を離す。

シーン2:ロンドンタイムのブレイクアウト

欧州勢参入でドル円が上方ブレイクする場面がある。ブレイク後に+60pips乗れたとする。「このまま100pipsいくかも」は欲で、「一旦押し目がある」という相場の習性を軽視している可能性がある。

利確ターゲットをブレイク幅の70-80%と事前に決めておくのが、「頭を譲る」実践だ。

シーン3:スイングトレードの利確判断

3日保有して+120pips の含み益。「もう50pips伸びるかも」と思ったとき、「頭と尻尾はくれてやれ」を思い出す。

エントリー時に設定した利確ターゲットが+100pipsなら、ターゲット到達で迷わず決済する。追加の50pipsを追うのは「頭を狙う」行動で、その50pipsを得るためにすでにある120pipsを危険にさらすことになる。


よくある誤解

この格言を「天底を狙わなければ、いつでも好きなタイミングで決済していい」という意味で解釈するトレーダーがいる。

違う。

「頭と尻尾はくれてやれ」は、利確を早くしろという意味ではない。「天底を完璧に取ろうとする欲を持つな」という意味だ。

「+20pipsで十分」と早期利確してしまうことも、「胴体の大部分を切り捨てる」という意味では同じ問題になる。「売り買いは腹八分」というまた別の格言が、「欲張らず、かつ十分に取る」というバランスを教えている。

今日からできる1つのこと

次のトレードのエントリー前に、「利確ターゲット」を決めてから建てる。

「ここまで行ったら利確」を明示的に設定する。逆指値(ストップ)と同時に、利確の指値も入れてしまうのが最も確実だ。

そのターゲットに達したら、「もう少し上がるかも」という欲が出てきても、計画通りに決済する。「頭と尻尾はくれてやれ」という言葉を思い出すだけで、指が動きやすくなる

よくある質問

Q: 「頭と尻尾はくれてやれ」という格言はFXにも使えますか?株や商品市場の格言では?

A: この格言の本質は「完璧な天底を狙わない」という相場心理の戒めで、FX市場にそのまま適用できます。むしろFXはトレンドが続きやすく天底を取るのが困難な市場であるため、この格言が特に有効です。現代の通貨市場でも、トレーダー心理の本質は江戸の米相場師と変わりません。

Q: 利確ターゲットはどう決めれば良いですか?何pipsが適切?

A: ターゲットは相場の構造(直近の高値・安値、サポート・レジスタンス)に基づくべきで、一律の「何pips」は適切ではありません。ただし損切り幅の2倍以上のリスクリワードを確保できる水準を最低ラインとする考え方が一般的です。「-30pipsで損切りするなら、+60pips以上の目標がある場合だけエントリーする」という考え方です。

Q: 「頭と尻尾はくれてやれ」と「ホールドする忍耐」は矛盾しませんか?

A: 矛盾しません。「頭と尻尾はくれてやれ」は「途中で手放さず、胴体をしっかり取る」という忍耐も含んでいます。+87pipsで利確を躊躇して+20pipsになる例は、「天底を狙う欲」の問題です。「胴体(例えば+60-70pips)まで忍耐強く持ち続けて、そこで迷わず決済する」のが格言の実践です。

Q: 天底を当てられる日もあります。そういう時はどう考えればいいですか?

A: 天底を当てられた日は、「運が良かった」と記録しておきましょう。天底を狙い続けることで生まれる「連続した利確失敗」のコストの方が、たまに天底を取ることで得られるボーナスよりはるかに大きいのが統計的な現実です。確率的に考えると、「胴体を確実に取る」スタイルの方が長期的なパフォーマンスは安定します。