3連勝した翌日、いつもより大きなロットでエントリーして大きな損失を出した経験はないだろうか。
「やっと自分のスタイルが掴めてきた」「最近の相場は自分に合っている」──そう感じた瞬間が、実は最も危険な瞬間なのかもしれない。
「ホットハンドの誤謬」とFXトレード
バスケットボール界には長年「ホットハンド」という概念があった。「シュートが続けて決まっている選手は、次のシュートも決まりやすい」という考え方だ。
しかし1985年、認知心理学者のギロビッチ、ヴァローネ、トベルスキーの研究によって、この「ホットハンド効果」は統計的に存在しないことが証明された。連続したシュート成功は、単純な確率の揺れに過ぎなかったのだ。
FXトレードでも同じことが起きている。
3回連続で利益を出したとき、私たちの脳は「自分はスキルが上がった」と解釈する。しかし実際には、たまたま相場の方向性が自分の手法と一致しただけの可能性が高い。
なぜ脳はパターンを見つけようとするのか
人間の脳は、ランダムな出来事の中にもパターンを見出そうとする。これを**「アポフェニア」**と呼ぶ。
古代の人間にとって、これは生存に役立つ能力だった。草むらが揺れたとき、「風かもしれない」と思うより「猛獣かもしれない」と警戒する方が生き延びられた。
しかしFXトレードでは、この本能が裏目に出る。ランダムな連勝を「自分の実力の証明」と解釈し、リスクを高めることで大きな損失を招くのだ。
過信が起きる3つの段階
第1段階:帰属の変化
最初の勝ちトレードでは、多くのトレーダーは「運が良かった」と思う。しかし2連勝、3連勝と続くと、「自分の分析が正しかった」という解釈に変わっていく。
心理学では、良い結果を自分のスキルに帰属し、悪い結果を外部要因(相場の不合理さ、ニュースのサプライズ)に帰属する傾向を**「自己奉仕バイアス」**と呼ぶ。
連勝が続くほど、このバイアスは強化される。
第2段階:ロットの増加
過信の最も危険な症状が、ポジションサイズの拡大だ。
「今の自分なら少し大きめのロットでも大丈夫」という感覚。これは非常に危険なシグナルだ。なぜなら、ロットが増えることで同じ不利な値動きでも損失額が何倍にも膨らむからだ。
多くのFXトレーダーが証言する「口座を溶かした経験」の多くは、このパターンに沿っている。好調期に調子に乗ってロットを上げ、相場の転換期に大きな損失を被る。
第3段階:ルールの例外化
「今回はいつもと状況が違う」──これが過信の最終段階だ。
自分で決めたルール(損切りライン、1日の最大損失額、使用するインジケーター)を「今回だけは」と例外扱いし始める。
この「今回だけ」の積み重ねが、戦略的なトレードシステムを破壊していく。
連勝後のメンタル管理:具体的な手法
1. ポジションサイズを変えない
最も効果的な対策は、連勝しても連敗してもポジションサイズを変えないことだ。
「勝っているときはロットを上げていい」という考えは、ギャンブルでの「勝ちが続いているときは賭け金を上げろ」という誤謬と同じだ。
プロのトレーダーの多くは、1トレードのリスクを口座残高の1〜2%に固定している。この原則は好調期も不調期も変えない。
2. 「ラッキーだったかもしれない」を意識的に問う
連勝した後は、必ず自問する習慣をつけよう:「この勝ちはスキルによるものか、それとも相場の流れがたまたま自分に有利だっただけか?」
この問いに正直に向き合うだけで、過信の芽を早期に摘むことができる。
3. トレード日誌に「不確実性」を記録する
多くのトレーダーは勝ちトレードの「良い判断」ばかりを記録する。しかし本当に有用なのは、「今回は正しかったが、別の展開もあり得た」という不確実性の記録だ。
「ドル円が予想通り上昇したが、米国の雇用統計が悪化していたら逆に動いていた可能性がある」──こういった記録が、過信を防ぐ客観的な視点を育ててくれる。
4. 一定期間のパフォーマンスで評価する
1週間の連勝ではなく、3ヶ月以上のパフォーマンスで自分を評価しよう。
短期の連勝は統計的なノイズに過ぎない可能性が高い。真の実力は、様々な相場環境(トレンド相場、レンジ相場、ボラティリティの高低)を経た長期的な結果に現れる。
最も難しい「適切な自信」を持つこと
過信を防ごうとするあまり、自信を失ってもいけない。優柔不断や決断の遅さは、また別の問題を引き起こす。
重要なのは「適切な自信」だ。自分の手法の有効性を信じながら、同時に相場の不確実性を常に念頭に置く。
「私の手法は有効だ。しかし今回のトレードは間違える可能性がある」──この両立した思考が、長期的に勝ち続けるトレーダーのメンタルの核心だ。
連勝は嬉しい。しかしその喜びに浸る前に、一歩引いて自分の状態を客観的に観察する習慣が、FXで長く生き残るための必須スキルだと覚えておこう。
